電験二種の合格通知を見た時、嬉しさと同時に少し不思議な気持ちがあった。

取れた。

でも、これで何かが劇的に変わるわけではない。

資格は、人生を勝手に運んでくれる切符ではない。

その切符を持って、どこへ行くのかを自分で決めなければいけない。

栃木のIT専門校で少しずつ日常を取り戻し、資格も積み上げ、プログラミングにも触れた。

でも、学校はいつか終わる。

給付もいつか終わる。

また働く場所を選ばなければいけない。

電験二種に受かったことをきっかけに、僕は転職活動を始めた。

応募書類を書く。

職務経歴書を整える。

エージェントと面談する。

求人票を読む。

メールを返す。

それは単なる就職活動ではなかった。

自分の過去を、もう一度言葉に直す作業だった。

履歴書に書ける部分だけでなく、その余白に沈んでいたものまで、無理やり掘り起こす作業だった。

職務経歴書は、都合よく整った人生だけを求めてくる

職務経歴書を書くたびに、少し嫌な気持ちになった。

そこに書けるのは、基本的に外から見えるものだけだ。

会社名。

所属。

担当業務。

保有資格。

使えるツール。

経験年数。

成果。

そういうものは、確かに必要だ。

採用する側からすれば、まず外から分かる情報で判断するしかない。

でも、その形式に自分の人生を押し込もうとすると、どうしても抜け落ちるものがある。

なぜ阪大を中退したのか。

なぜ愛知で沈んだのか。

なぜせどりに逃げたのか。

なぜ会計に行き、なぜ電気へ移ったのか。

なぜ再エネの現場で消耗し、それでも経験としては後悔していないのか。

履歴書には、その説明を長々とは書けない。

でも、書けないからといって、なかったことにはできない。

むしろ、そこを自分の中で説明できないまま次へ進むと、また同じような選び方をしてしまう気がした。

エージェント面談は、過去を人に説明する練習だった

複数の転職エージェントと面談した。

パソナキャリアにも登録したし、他のエージェントとも話した。

面談では、これまで何をしてきたのかを聞かれる。

なぜ退職したのか。

次に何をしたいのか。

どんな条件を重視するのか。

勤務地はどうするのか。

年収はどのくらいを希望するのか。

施工管理に寄せるのか。

保守・O&Mに寄せるのか。

メーカーや施設管理も見るのか。

面談のたびに、同じような説明をする。

最初は、それが面倒だった。

でも、何度も話しているうちに、自分の中で言葉が少しずつ整理されていった。

自分は何を嫌がっていたのか。

何なら耐えられるのか。

どんな経験を、次の場所で使いたいのか。

何をもう一度やりたいのか。

何だけは繰り返したくないのか。

面談は、ただ求人を紹介してもらう場ではなかった。

自分の過去を、人に説明できる形へ変えていく練習でもあった。

AIに職務経歴書を見せると、過去が別の形に見えた

この時期、AIをかなり使うようになった。

応募書類のたたき台。

職務経歴書の表現。

自己PR。

志望動機。

メールの返信。

面接前の想定問答。

自分一人だと、どうしても感情が混ざる。

この経歴は弱いのではないか。

空白期間をどう見られるだろうか。

退職理由を正直に言いすぎるとまずいのではないか。

逆に綺麗にまとめすぎると嘘っぽいのではないか。

そうやって、書く前から詰まる。

AIに投げると、少なくとも文章の形にはしてくれる。

それが正しいとは限らない。

そのまま出せるわけでもない。

でも、叩き台があると考えられる。

自分の過去が、ただのぐちゃぐちゃした記憶ではなく、いくつかの経験や強みとして並び始める。

会計事務所での月次・決算・申告補助。

再エネO&Mでの点検、書類、協力会社対応、図面確認、現場調整。

電験二種、基本情報、簿記、会計、プログラミング。

バラバラだったものが、少しずつ線に見えてくる。

AIは、自分の代わりに人生を決めてくれるものではなかった。

でも、自分の過去を別の角度から眺める鏡にはなった。

メール対応の苦手さも、AIでかなり軽くなった

再エネの会社にいた頃、メールや調整はかなり負担だった。

誰にどう返すか。

どこまで丁寧に書くか。

角が立たないようにしながら、必要なことを伝える。

相手の温度感を読み、社内の事情も気にし、協力会社や地方拠点との関係も考える。

そういう文章を書くのに、かなり神経を使っていた。

転職活動でもメールは多い。

面談日程の調整。

応募可否の返事。

書類提出。

辞退連絡。

お礼。

確認。

以前なら、一通書くのにも妙に疲れていたと思う。

でも、AIに下書きを作らせると、その負担がかなり減った。

もちろん、そのまま送ると硬すぎたり、他人行儀すぎたりする。

だから、自分の言葉に直す。

でも、ゼロから書かなくていいだけで、ずいぶん違った。

RJ時代にあれだけ苦労した調整やメールも、AIがあれば少しは楽になったのではないか。

そう思った。

過去を棚卸しすると、失敗も素材になる

転職活動で過去を整理していると、嫌でも自分の失敗と向き合うことになる。

大学中退。

空白期間。

せどりの失敗。

会計事務所の短期離職。

再エネ会社からの退職。

仮想通貨損失。

AI開発の仕様膨張。

そのまま並べると、かなり見栄えが悪い。

でも、一つずつ見ていくと、全部が無意味だったわけでもない。

せどりでは、相場を見る感覚と生活基盤の大事さを知った。

会計事務所では、数字と事業の見方を少し覚えた。

再エネでは、現場と書類と調整の現実を知った。

仮想通貨では、欲と焦りの危うさを知った。

AI開発では、問いの立て方と仕様管理の難しさを知った。

もちろん、美談にはしない。

失敗しなくていいなら、しない方がいい。

でも、すでに起きたことは消えない。

消えないなら、せめて棚卸しする。

何が残ったのか。

何が使えるのか。

何はもう繰り返したくないのか。

その作業をしないまま、次の会社へ入るのは怖かった。

僕は、きれいなキャリアではなく、組み合わせで勝つしかない

転職活動をしながら、少しずつ思うようになった。

自分は、きれいなキャリアの人間ではない。

新卒から一社で積み上げてきた人には、その道では勝てない。

施工管理なら、新卒から現場で鍛えられた人がいる。

メーカーや研究開発なら、自分より上の学歴や専門性をそのまま積み上げてきた人がいる。

会計なら、税理士試験や事務所経験をまっすぐ積んできた人がいる。

ITなら、若い頃からコードを書き続けている人がいる。

正面から一つの道で勝とうとすると、だいたい先に強い人がいる。

でも、電気、現場、会計、資格、IT、AI、投資の失敗。

その全部を少しずつ持っている人は、そこまで多くない。

なら、勝ち筋は一つの肩書きではなく、組み合わせの中にあるのではないか。

電気だけではない。

会計だけでもない。

ITだけでもない。

現場と数字と文章とAIを、どう接続するか。

そこで自分の立てる場所を探すしかない。

そう考えるようになった。

履歴書の余白を、次の選択肢に変えていく

応募書類を書く作業は、面倒だった。

何度も嫌になった。

綺麗に説明できない過去を、採用書類の形式に合わせるのはしんどい。

でも、その過程で気づいたこともある。

履歴書に書けないものは、価値がないわけではない。

ただ、そのままだと他人には伝わらない。

過去を棚卸しして、言葉にして、どこに接続できるのか考える必要がある。

AIは、その作業を手伝ってくれた。

でも、最終的に何を選ぶかは自分で決めるしかない。

どの会社に行くのか。

どの業界を見るのか。

どの経験を武器にするのか。

何を捨てるのか。

何を諦めるのか。

何をもう一度取りに行くのか。

応募書類を書きながら、僕はただ転職先を探していたのではない。

自分の過去を、次の選択肢に変える方法を探していた。

このサイトの名前にした「履歴書の余白」は、たぶんそこから来ている。

履歴書に書けない時間。

書きにくい失敗。

説明しづらい遠回り。

それをなかったことにせず、でも美談にもせず、次の選択肢へつなげていく。

転職活動は、その練習だった。

次に読む資格と実務とAIを、次の土俵につなげようとしている

電気、会計、現場、IT、AI。まっすぐではない経験を組み合わせて、次の仕事と発信の土俵を作ろうとしている現在地へ。

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